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最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)152号 判決 1948年11月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人市毛哲夫及び同海野普吉の上告趣意について。

刑訴應急措置法第一〇條第三項の「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」というのは、抑留若しくは拘禁が自白を生んだ場合ばかりでなく、抑留若しくは拘禁の期間が長きに亘って、その後に初めて自白があったような場合には、抑留若しくは拘禁と自白との間に因果關係があったと見る趣旨と解すべきである。從って反對に自白と抑留若しくは拘禁の生活との間に因果関係がないことが明らかである場合は、右の自白に含まれないものと見るのが相當である。

本事案を調べて見ると、昭和二一年一〇月一七日に本件犯行が発生し、翌一八日一九日と被告人に對する警察官の聽取があり、之に續いて同月二三日に檢事の聽取があった後、同日第一回の豫審訊問が行われ、一一月五日には醫師の鑑定書が裁判所に提出されてから昭和二二年一月一七日に第二回豫審訊問が行はれるまで七十餘日を經ているから、右拘禁の期間は必しも短いとは言えないけれども、被告人は犯行直後、警察、檢事局、豫審第一回取調を通じ卒直に殺意を自認していたこと、從って第二回豫審訊問に至って初めて殺意を自認したものでないことは記録上誠に明らかである。被告人が犯意を否認し續けていて、第二回豫審訊問の際に初めて之を自認したものであれば、或は不當に長い拘禁後の自白の場合に當るとも言えるけれども、本件の場合は正にその反對であって、被告人は犯行直後から第二回豫審訊問までは、終始殺意を認めていたものである。つまり自白と拘禁生活との間に因果關係がないことが明らかであるから、本件はいわゆる不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白ということはできない。(當廳昭和二二年(れ)第二七一號事件、同二三年六月三〇日宣告大法廷判決参照)されば、原判決が第二回豫審訊問調書中豫審判事に對する被告人の供述を證據にとったことは、刑訴應急措置法第一〇條第二項に從って日本国憲法第三八條第二項に違反したものではないから論旨は理由がないものである。

よって刑事訴訟法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介)

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